大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和52年(借チ)1029号 決定

申立人 松浦キミ

右代理人弁護士 小川修

相手方 泉田賢一

右代理人弁護士 堀合辰夫

同 伊藤博

右堀合辰夫復代理人弁護士 木ノ下一郎

同 中川潤

主文

申立人が相手方に対しこの裁判の確定の日から六月以内に金三九万円を支払うことを条件として建築基準法所定の建築確認を得た限度で、申立人が別紙物件等目録(二)記載の建物について同目録(三)記載の増築をすることを許可する。

理由

一  当事者の申立て及び主張

(申立人)

申立人は、申立人が別紙物件等目録(三)記載の増築を許可する旨の裁判を求め、次のように主張した。

申立人(借地人)と相手方(土地所有者・賃貸人)との間には、現に、別紙物件等目録(一)記載の土地(以下、本件借地という。)を対象として、次のような賃貸借契約が締結されている。

(1)  契約締結の日 昭和四一年三月二〇日

(2)  目的 木造その他堅固でない建物の所有

(3)  特約 契約日から六ヶ月以内の増改築は認めるが、それ以外の増改築は、賃貸人の書面による承諾を必要とする。

(4)  現行賃料 月額金九、三〇〇円(昭和五二年七月一日以降)

(5)  存続期間 昭和六一年三月一九日まで

申立人は、本件借地上に現に同目録(二)記載の建物(以下、本件建物という。)を所有し居住しているところ、向後息子夫婦と同居していくには手狭である等の理由で、右建物に同目録(三)の増築(二階部分増築。以下、本件増築という。)をしたい。

しかるに、土地賃貸人である相手方は種々交渉したのに右増築を承諾しないので、申立人は、その承諾に代わる許可の裁判を得るため、本件申立てに及んだ。

(相手方)

相手方は、申立てを棄却する裁判を求め、申立人の主張事実(本件増築を必要とする理由を除く。)をすべて認めたが、次のように、本件増築は建築基準法に違反することが明らかであり、しかも違反の程度が余りにも大であって、とうてい許可に値しない(要旨)ものであると主張した。

(一)  本件借地には私道部分一六・五二平方メートル(五坪)が含まれているので、建築有効借地面積は八五・九五平方メートルであるところ、地上の本件建物は、すでに三九・六六平方メートル(一二坪)の床面積を有する。

(二)  本件借地に係る建築基準法上の建ぺい率は三〇パーセント、容積率は六〇パーセントである。したがって、本件増築をしなくても、本件建物は既に右建ぺい率等による制限上違法な建物となっており、右私道部分を除くならば、違反の程度はますます大となる。

二  当裁判所の判断

1  本件で取調べた資料(当事者双方の陳述を含む。以下同じ。)によれば、前記申立人主張の事実を認めることができる。

2  本件の鑑定委員会は、本件増築について、要旨、土地の利用上相当である、これを認める場合借地人に金三九万円の財産上の給付をさせる必要があるとの鑑定意見を提出している。この場合、鑑定委員会は、鑑定意見書(昭和五三年五月三〇日付け追加意見書を含む。)中の記載によれば、本件土地に関する建築基準関係法規による建ぺい率その他の建築制限の状況を調査したうえ、本件建物が現に建ぺい率(三〇パーセント)による床面積制限を若干超えていることを認めつつも、本件増築自体は容積率(六〇パーセント)による建築制限に係らないこと、及び右の既存の建ぺい率違反の点も今後申立人が本件増築につき建築確認を受けるに際し所管官庁の指導に従うことによる是正が期待されるとし、また、本件借地のうち私道に提供されている部分があるので建築敷地面積に影響を与えることなしとはしないが、その場合には、本件増築に対する許可は建築確認を得られる範囲内においてすべきものとしている。ところで、増(改)築に係る建物に建築基準関係法規による建築制限違反が現存していても、当該増(改)築自体が右制限違反を免れないのではなく、その既存の制限違反も是正される可能性が十分ある場合には、当事者間における借地関係の処理に関しては、当然にはこれを当該増(改)築を許さないとする事由にするまでもない。次に、本件で取調べた資料によると、本件借地(面積)の一部が私道に用いられていることが認められる、(どの程度の部分(面積)がそのようにされているかまでは確認されない。)。そうだとすると、その私道としての使用の状況によっては、その部分の面積は、地上建築物の許容面積の算定の基礎としての敷地面積から除かれることとなり、その場合には、申立人の計画する本件増築自体が容積率による制限に抵触することとなるかも知れない。しかし、右私道使用部分を建築物の敷地面積から除くべきかどうかは、その使用の実態をふまえた上での関係法規の運用の実際を離れては適確な判定をし難いばかりか、本件増築が敷地面積との関係で建築制限に抵触するとしても、その全部が今後一切不適合とされるわけではなく、増築規模に修正を加えることによりその抵触を免れることができるものである。また、建築基準関係法規の運用、実施の権限は、第一次的には建築主事その他の所定の行政庁に存するところである。よって、本件の場合は、資料により認められるその余の一切の事情を考慮した上、土地の利用上本件増築を相当とする前記鑑定委員会の意見を採用することとし、建築基準関係の法規適合性からの処理については、権限を有する所管官庁による本件増築に対する建築確認の許否や行政指導を通じての権限行使に待つのを相当と認める。

よって、申立人の本件申立て(増築許可)は、建築基準法所定の建築確認を得られる限度において、これを相当として認容することとするが、前記鑑定委員会の意見に従い、本件増築許可について申立人から相手方に対し金三九万円の財産上の給付をさせることとする。この額は、鑑定委員会の評価に係る本件土地の更地価格に対する比率の面からみても、この種増築事案における当裁判所の先例の範囲にあるから、相当であると認められる。

三  まとめ

よって、本件申立てを制限付きで認容し、ただし、当事者間の衡平を図るため、本件増築許可の効力の発生を申立人から相手方に対してする金三九万円の財産上の給付に係らしめることとし、主文のとおり決定をする。

(裁判官 内田恒久)

〈以下省略〉

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例